「カルロス・ゴーンは悪者か?」と考えたのがきっかけで、
色々調べている中で出会った1つの記事を読んで、
「なるほどそうだったのか!」と多くの疑問が解消しました。
その記事を、
私がその記事を読み解くのに勉強した内容を付加して、
ビジネスや法律などに詳しくなくても分かりやすいように、
ドラマのようなストーリー形式で解説したものが本記事です。
ビジネスや法律に興味はないけど、
話題のカルロス・ゴーン氏が悪者なのか?という疑問に興味があれば、
どうぞ読んでみてくださいね。
約20年…正確には19年の間に、日産でカルロス・ゴーン氏が何をしてきたのかを理解すると、
カルロス・ゴーン氏に関するドラマティックなストーリーの全体が分かってきて、
話題の「日産カルロス・ゴーン元会長逮捕事件」への興味・関心が深まり、見方が変わってくるかもしれません!
この記事は全10話のストーリーの、第2話目「日産のゴーン時代~武勇伝 第一期」です。
2話目は、2つの内容があります。
「ゴーンが作った2つの武勇伝」と「ゴーンは日産を大切にしていた」というお話です。
この2話目から、日産とカルロス・ゴーン氏の約20年のお話が本格的に始まります。
「ストーリーの前提」と「日産と交わる直前のカルロス・ゴーン氏」について知りたい方は、
1話目「はじまり」をご覧ください。
私が感銘を受けた元の記事に敬意を払いながら、
大切な表現や構成をできるだけ壊さずに、
基礎情報がなくても分かりやすい表現と順番で、
読みやすいストーリー形式で作成しています。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
カルロス・ゴーンは悪者か?日産とゴーン氏の20年の歴史ストーリー
第2話目 「日産のゴーン時代~武勇伝 第一期」
10年に渡って利益が出せず、会社の財務状況はボロボロで瀕死の状態な上、
きっと助けてくれる!と信じて熱烈なラブコールを送った、ダイムラーとの資本提携がなくなって、
未来への希望を失った絶望的な状態の日産に、
手を差し伸べたのがルノーでした。
そして…
瀕死の日産を立て直し、その後も日産の独立性について、ルノー、ひいてはフランス政府から守ってきた男こそが
カルロス・ゴーンだったのです!
さて、1話目に続き前置きが長くなってしまいましたが、
ようやくここから、本格的な日産とカルロス・ゴーン氏の歴史について話を始めましょう。
Contents
「日産のゴーン時代」とは
「日産のゴーン時代」のはじまりは、2000年の6月。
日産を立て直すためにルノーから派遣された、カルロスゴーン氏が、日産の社長に選出された瞬間です。
このお話は、
「日産のゴーン時代」の幕開けから、
2018年11月にゴーン氏逮捕による会長解任までの
日産とゴーン氏の約18年間の物語です。
18年間の「日産ゴーン時代」は、
ゴーン氏の様子(態度や方針)と日産の状況から、3期に分けることができます。
日産ゴーン時代の3ピリオド
第一期 日産の再生時代
第二期 ゴーン独裁帝国のはじまり
第三期 王の暴走とゴーン帝国の終焉
この2話目では、第一期「日産の再生時代」についてお話します。
日産ゴーン時代 第一期「日産の再生時代」~ゴーンの武勇伝
日産ゴーン時代 第一期「日産の再生時代」は、
まさに、カルロス・ゴーン氏の武勇伝です。
実は、当時の日産は、誰も引き受けたがらない会社でした。
日産は助けを求めて、熱烈なラブコールを送ったものの、ダイムラーに大失恋。
日本政府(現在の経産省)が、日産再生にチャレンジしようと、一大プロジェクトを立ち上げたものの、
救世主ルノーの登場でサッと身を引く始末でした。
日産の有利子負債は、2兆円にまで膨らんでいました。
【ビジネス用語豆知識】
有利子負債
利子を付けて返さなければならない、会社の借金やマイナスの財産のことです。
【経済豆知識】
Q: 「2兆円」ってどのくらい?
A: 世界191か国のうち、24%(約4分の1)の国のGDPは2兆円以下です。
1つの国が国民全員で1年かけて稼ぐお金よりも多くの借金を、日産は抱えていたことになります。
カルロス・ゴーンの武勇伝『日産ゴーン時代 第一期「日産の再生時代」』のはじまりは、
2000年6月、
ゴーン氏が日産の社長になったところからです。
日産社長カルロス・ゴーンは、
2000年~2005年の約5年で、
瀕死の状態だった日産の立て直しを完成させてしまいました!!!
日産再生時代のゴーン2大武勇伝
ゴーン時代 第一期「日産の再生時代」に、ゴーン氏は、2つの偉大なことをやってのけました。
これは彼の2大武勇伝です。
日産再生時代のゴーン2大武勇伝
武勇伝1 日産を立て直した!
武勇伝2 日本企業の古い商習慣を転換した!
2005年までの約5年間。
日産の再建を果たし、日本企業の古い商習慣を転換したフェーズです。
株の持ち合い構造や、2兆円にまで膨らんでいた有利子負債、シェア割や系列による部品発注、あるいは年功序列を次々に破壊していき、
責任の所在が曖昧なスタイルから、「コミットメント経営」という形に変えました。
2兆円もの負債を抱えた倒産寸前の日産を立て直すために、
ゴーン氏は3つのことをご存知ですか?
それは…
現場のヒアリングを徹底したことと、
自分の首をかけたて挑んだ日産再生計画をやってのけたこと、
徹底的に目標を数値化した、日産再生完成計画を達成したことです。
徹底した現場ヒアリング
長所、短所を知り尽くし、どこに可能性があるかを指摘できるのは当事者だ。
答えはすべて現場にある!
日産とルノーの資本提携が完了し、日産にやってきたカルロス・ゴーン氏が最初にしたことをご存知ですか?
まるでアメリカ大統領が新しく就任した時のように、
まるで松岡修造のような情熱を込めて
日産全従業員の前で熱いスピーチ!
ではありませんでした。
ゴーン氏が最初に行ったことは、
「徹底した現場ヒアリング」だったのです。
長所、短所を知り尽くし、どこに可能性があるかを指摘できるのは当事者だ。
答えはすべて現場にある!
ゴーン氏は、
日本、アメリカ、ヨーロッパの200名の日産社員で構成された、
特別扱いも強制もタブーさえも無い、部門やカテゴリーなどの担当を越えた
日産クロスファンクションチームを立ち上げました。
すべての答えがあるという、現場から
長所、短所を洗い出して、日産を立て直すための2000件の厳選アイデアを提案させました。
この2000件をアイデアをさらに自分たちで突き詰めさせて、
本当に日産を立て直すために必要な400件のアイデアを、
取締役会に提出させたのです。
そうして、現場の社員たちが、自分たちの声から作り上げた、
「日産リバイバルプラン」は、スタートしました。
なぜゴーン氏は、
最初に全従業員の前で情熱を込めた熱いスピーチを行わなかったか分かりましたか?
もしもこの「日産リバイバルプラン」が、
どんなに専門家による調査分析のもと計画された完璧なシナリオだったとしても、
ゴーン氏の独断し、全社員に強制したものであったとしたら、
きっとこれほどの結果は出せなかったのではないでしょうか?
今の日産取締役副会長志賀俊之は、ゴーン氏の「日産リバイバルプラン」について、こんなことを語っています。
「日産リバイバルプラン」の策定はタスクの5%に過ぎない。あとの95%へやり遂げること
計画は5%、計画に沿って実際に行動し、目標を達成することが残りの95%だと。
「日産リバイバルプラン」は、
社員たちが、自ら積極的に計画を実行することが可能な計画でなければならなかったのです。
そのためには、全ての従業員が愛着を持って取りくむことができる計画である必要がありました。
だから、ゴーン氏は、
情熱的なスピーチをするのではなく、
社員たちに自ら「日産リバイバルプラン」を提案させたのです。
人は与えられた目標や計画では、モチベーションは上がらない。
ー日産はいかにしてV字回復したか 志賀俊之さん / 慶應MCC 夕学リフレクション
自分の首をかけた「日産リバイバルプラン」
「徹底した現場ヒアリング」で、現場から長所、短所を洗い出して、
社員自らに提案させて作り上げた
「日産リバイバルプラン」とはどんなものだったのでしょうか?
「日産リバイバルプラン」は大きな3つの目標からできています。
「日産リバイバルプラン」の3つの目標
1 利益ある成長
2 3年間で20%のコスト削減
3 最適生産効率/最適生産コストの達成
この3つの目標を達成するために、行ったのはこんなことでした。
・新商品の投入やブランドアイデンティティの確立。
・部品や素材の集中購買、サプライヤー数の削減
・ユニット生産能力の適正化
上にあげたように言うと、とってもスマートで聞こえがいいですが、
これが今になってもゴーン氏を「ヒドイ人」「鬼」「心が無い」などという言われたりするポイントです。
具体的にゴーン氏は何をしたのかと言うと…
■ 国内の5つの工場を閉鎖した!
■ 生産能力のにあった生産台数に調整→ 年間生産台数を240万台→165万台に減らした!
■ コスト削減のために、世界中の日産グループ全体で21,000人の従業員を減らした!
■ 購買コスト(部品を買うお金)を減らすために、下請け企業の数を半分に減らした!
日産の工場があることで潤っていた街もあったでしょう。
日産の下請けが売り上げのほとんどを占めていた町工場などもあったでしょう。
日産内部でも、大規模なリストラがあったことは言うまでもありません。
人員の削減は、工場で働く従業員だけではなく、国内販売ディーラー、世界の日産グループ全体で、事務系&開発系社員も漏れなくその対象でした。
また、この21,000人には、一部の事業を売却したことによって、日産社員から売却された企業の社員になった「異動」も含まれています。
多くの日本人経営者ではこれは実行できなかったと言われています。
その理由は「人間関係のしがらみ」。いざメスを入れようとすると、あちこちから声が上がります。
「なんとか自分だけは助けてくれないか?」
「●●年も一緒にやってきたじゃないか!?」
「ここで見捨てられたら、これから私は/私たちはどうしたらいいんだ?死ねと言うことか?」
「お前は自分/自分たちだけが良ければ、それでいいのか?」
こんな声は社内外から、社員に役員に届きます。
“義理人情”という日本の考え方があります。
日本人経営者の多くが、その会社で下積み時代を経て上り詰めた人材です。
そのためその会社の内外で多くの人と助け合った過去&現在があって、今がある、わけです。
一方、約1万kmのはるか彼方のフランスから、ある日やってきた外国人のゴーン氏には、
この「人間関係のしがらみ」はありません。
「人間関係のしがらみ」に左右される日本企業の商習慣、「年功序列」などという日本の慣習も、
日産を立て直すために効果を発揮するものでなければ、潔くぶち壊してしまいました。
あなたは、ゴーン氏をやっぱりヒドイ経営者だと思いますか?
本当にゴーン氏が、ただヒドイ経営者だったとしたら、
例え自分たちが作った目標&計画だったとしても、その達成のために本気になったでしょうか?
長年の付き合いのある取引先との取引終了、酸いも甘いも共にしてきた職場の同僚のリストラ、必死でやらなければ到底達成できない目標へのチャレンジなど、
日産社員が「日産リバイバルプラン」達成のために本気で動いたのは、
ゴーン氏が『あること』を最も大切にしていたからです。
それはコミットメントです。 俺が責任を取る!
カルロス・ゴーンは、
「日産リバイバルプラン」は日産を立て直すことができる計画だ!と信じて、
提案した社員を信じて、この計画を承認したわけです。
もしうまくいかなかったら?もし達成できなかったら?
多くの日本企業では、「僕たちは一生懸命頑張った!やれるだけのことを精一杯やったんだ!」以上。
となることが多いですよね。
カルロス・ゴーンは、違います。
自分が信じて、承認した「日産リバイバルプラン」に対して、
この目標を達成できなければ辞任する
と宣言しました!
このプランを私は信じる、君たちがこれを達成できると信じている!
責任は俺が取る!さぁ、やってくれ!
社長が公にドーンとこんなことを言ったら、従業員も本気になるでしょう。
日産従業員も、ゴーン氏のコミットメント発言に触発され、「日産リバイバルプラン」に必死で取り組み、
予定よりも1年早く、2003年には2兆円の有利子負債を完済させてしまいました。
目標をとにかく数値化した「日産180」
2兆円の借金を完済し終えた日産は、これでやっとスタート地点でした。
真の意味での「立て直し」を完成させるために、
カルロス・ゴーンは、とにかく目標を数値化した「日産180」という中期計画を打ち立てます。
日産が役員&従業員、会社が一丸となって達成させた「日産リバイバルプラン」に続く、
次の3年間の目標が、この「日産180」というわけです。
「日産180」は、”日産ワンエイティ”と読みます。
1・8・0は、それぞれ目標を数値化したものでした。
「日産180」の意味と目標
1 3年間でグローバルで100万台販売台数を増やす!
8 営業利益8%を達成する!
0 負債を0(ゼロ)にする!
ゴーン氏がやってくる前の日産は、
10年の間に、販売台数ダウン↓、利益が出せず、ついには2兆円もの有利子負債を抱えました。
「日産リバイバルプラン」で、日産は赤字経営を脱しました!
「日産180」では、10年前の日産を180度ひっくり返す!ことを目指したのです。
つまり、「日産180」は、
日産を、販売台数をアップ↑させ、利益を出し、負債のない健全な財務状況の会社にする計画!
というわけなのです。
長期間業績が低迷した企業が、短期間に生き返るのに必要な条件は5つある。
1. 単純で明快な計画を持つこと。
2. すべてのことを一時にやるのではなく、取り組むべき優先順位(プライオリティ)を確立すること。
3. トップはキチッとコミットメント(実行責任)を果たすこと。私も、1年間で公約を果たせなければ、日産を去ると約束した。コミットメントなしにはリストラはできません。
4. 社内の円滑なコミュニケーション。危機の時ほど従業員との会話は重要だ。従業員と話し合い、それによって彼らが活路を切り開けることをわからせることは大事だ。
5. 人を選び、信頼して責任を与えることである。
―カルロス・ゴーン「日産180」より /http://u-note.me/note/47485863
日産ゴーン時代第一期「日産の再生時代」は、こんな時代だったのです。
ゴーン氏がやって来た時の日産の財務状況
1999年の決算報告
・売上高:5兆9,770億円
・営業利益:825億円
・経常利益:-16億円
・当期純利益:-6,843億円
ゴーン氏による立て直しが完了した時の日産の財務状況
2005年の決算報告
★ 売上高:10兆3,000億円
★ 営業利益:8,000億円
★ 経常利益:7,730億円
★ 当期純利益:4,800億円
利益は、改革の始まった2000年から6期連続で過去最高を更新し続けました。
ー日産HP IRライブラリーより
ゴーン氏の2大武勇伝はこうしてできたのです。
日産再生時代のゴーン2大武勇伝
武勇伝1 日産を立て直した!
武勇伝2 日本企業の古い商習慣を転換した!
ゴーン氏は日産を大事にしていた
この頃は、ゴーン氏は本当に日産を大事にしていたと思われます。
私の中でも経営者として評価の高い時期です。
ゴーン氏の名言にはこんなものがあります。
改革を実行したのは私ではなく、従業員たちです。
私はテコであり、触媒にすぎません
ーkigyotv.jpより
教科書なんて要らない。大切なのは人々の意見に耳を傾けること
ーkigyotv.jpより
ゴーン氏は、現場の社員の声に耳を傾け、社員の提案した計画「日産リバイバルプラン」を信じて実行を決め、
社員がそれを達成できると信じ、全力でサポート、
「日産リバイバルプラン」でゴーン氏が最も大切にしたことは、コミットメント。
責任は俺が取る!達成できなければ辞任する! というゴーン氏自らの宣言に、
社員が必死で動き、計画以上の効果を、計画よりも早く達成しました!!!
希望のないケースなどは見たことがありません。
十分なエネルギーを持って事に臨めば、どのような問題であっても解決できます
ーkigyotv.jpより
リーダーとは一体何か。私の答えは一言に尽きます。
「変革者」
すなわち現実を実際に変える人です。
これは、政治でもビジネスでも社会でも同じことです。
ーkigyotv.jpより
ゴーン氏の信念が、ルノーの大バクチ、日産の再生を実現させたんでしょう。
不可能なことのように思われた瀕死の日産の再生を成し遂げた、彼こそ「変革者」、真のリーダーだったと言えるのではないでしょうか。
抜本的なのコスト削減を行ったゴーン氏を、冷徹な経営者と呼ぶ人もいますが、
もしゴーン氏がこの改革を行わずに、日産が倒産していたら?!
少なくともこの時までは、ゴーン氏は、素晴らしい経営者でした。
ところが、転換点は2005年。
日産のCEOだけではなく、ルノーのCEOを兼務し始めた年です。
この続きはまた次回、3話でお話することに致します…
参考資料
本記事のベースとして主に参考にしたのはこちらの記事です。
News Pics
「緊急特集 ゴーン事変 そうだったのか独裁帝国!【保存版】ルノーと日産「20年史」のすべて」
2話の作成において参考・引用させて頂いた資料
「日産リバイバルプラン」詳細資料 /nissan-global.com
日産自動車2001年度決算プレビュー資料 /nissan-global.com
日産はいかにしてV字回復したか 志賀俊之さん / 慶應MCC 夕学リフレクション
カルロス・ゴーンとは?日産を蘇らせた、その手腕に迫る /起業.tv
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